蹴馬鹿の窓 NO.18

奇跡への軌跡。〜04.11.14 天皇杯 ジェフ戦〜
2004.11.15 kazua510

昨年 12月7日 天皇杯2回戦 対静岡産業大学戦
いつもより強い浜風 いや突風と言っていいほどの強風
下がり続ける気温は やがて雪が混じり 横殴りに吹きつけた。
ハーフタイム 少しでも暖を とチョコレートドリンクを買いに行った
その帰り 座席で待つルンバ氏の後ろ姿は まるで雪山遭難者だった。
「我々は何故に ここまでして サッカーを見るのか…」
あまりにも 過酷だった。その時 ひとつの決意が生まれた。

来年は 絶対 来ないからっ!

今朝 10時20分 ルンバ氏の車に乗った。Kazuaひとりで。
U子は「風邪引いた」と言う。そりゃお気の毒だ。じゃ家で寝てなさい…。
ん?ちょっと待て おまえ「先週 私 絶対行く ひとりでも行く」って言わなかったか?
おまえまであれか グルか?オレを行かせるための罠か?
まぁいいよ おにぎり作ってくれたし 行ってくるよ。どうせオレは出川役だし。

1年越しの前フリは 見事 実を結んだ。

「せめて 1点 取ってくれれば イイんですけどねぇ …5点取られても…」
室蘭へ向かう車中 ルンバ氏が言った。 Kazuaも うなづいた。
1時間半の道中 今日の試合に対する予想は それだけだった。
いや 想像したくなかった。どうイメージしても無残なものしか出てこないからだ。

「柳下さんは理想を求め過ぎてんじゃないか?現実とのギャップがあり過ぎるよ」
kazuaがまた分かった風な言葉を言った。ルンバ氏は苦笑い。
だが その数時間後 kazuaは自分で言った言葉を後悔した。
選手たちは いま自分の持てる 全ての 体力 知力 技術 精神力
全身全ての 出せる力の全てを 出した。

そして 勝った。

誰が予想しただろうか この結果を。あれほど走り続ける選手を。戦い続ける選手を。
「せめて1点」 そう願うのが 我々の精一杯だった。


今にも雨が落ちそうな 重く沈んだ空。だが入江には珍しく風はなかった。
そのためか 思ったほど気温は低くなく 観戦には過ごしやすくなっていた。
試合前から ジェフサポーターのテンションは高い
それもそうだろう 相手はJ2最下位 「負け」を考えることもない試合。
寒さも そう感じない。楽しいのだろう。
その様子 ひとつひとつが 神経に当たった。我々に残された願いはひとつ 
「岡田 頑張ってくれ」 ただそれだけ。

試合開始 主審の笛と同時に コンサドーレは攻撃に出た。
序盤の様子を探ることもない。清野がドリブル 角度のない所からシュート。
その直後 阿部のFKが目の前の砂川に当たる 両選手にイエローカードが出る
主審が試合の主導権を握るためのカード。
両選手ともチームの要だが 痛手の大きかったのは ジェフの方だろう。
レギュラーの半数近くを欠くジェフ 阿部の求心力に頼らざるを得ない状況だった
このカードで 阿部の力は3割失った。開始から僅か2分の出来事だった。

中盤のボールの奪い合いは続く コンサドーレの選手は取られても取られても諦めず追

一方ジェフはシュートまでの型を持っている DFのオーバーラップ 巻のヘディング
佐藤・阿部のミドル その全ての精度は高い。
だが 試合の主導権を握っていたのは コンサドーレだった。
序盤から 全開で走り続けている その運動量はジェフを完全に上回った
バックパスが出れば 堀井が必死で追った サイドの裏を突かれれば 岡田は追った
中盤のこぼれには金子が砂川が 真っ先にボールへ向かう。
その執拗さに ジェフは焦り始めた。
羽生が欠場のジェフには 左サイド村井の攻撃が軸になる。いや なるはずだった。
対峙するのは岡田 村井がドリブルで貫きに掛かれば 体を寄せセンタリングを封じた
裏へボールが出されれば 走り勝負で負けなかった。
結果 村井にはほとんどと言って良いほど 仕事をさせなかった。

阿部にカードが出され 村井を封じた。ジェフの力は半減する。
ただ心配は この走りいつまで持つだろうか と言うことだった。
10分が過ぎ 20分が過ぎても 一向に落ちない運動量 それも全員だ
堀井が前線からプレッシャーを掛けに行く 清野が続く 砂川 和波と連動する
ジェフは下げざるを得ない ジェフサポからは自チームへブーイングが出る
ロングボールが入る 曽田が競り勝つ セカンドにまたプレスが掛かる

だが 前半 30分も近くなった頃 両チームの足が止まってきた
それまで 技術の差を運動量でカバーしてきた だが足が止まれば 自力の差が出る
最も危険な状態だ。

だが 藤ヶ谷がいた。

この状況の中 脅威なのは ジェフのミドルシュートだった。
彼らの放つシュートは ほぼワクへ向かう それが30mの距離があろうとも
その全てを藤ヶ谷がセーブした。

「藤ヶ谷 怒っていいんだぞ!」
ルンバ氏が叫ぶ。その通りだ。最後尾からもっと鼓舞しろ。怒れ 藤ヶ谷
おまえの怒りが 逞しさが 力強さが チームをもっともっと強くするのだから。

ギリギリの状態を 藤ヶ谷のセーブで 選手たちは息を吹き返した。
前半の残りをまた走り続ける ジェフに攻撃の力は残ってなかった
0−0のまま 前半終了。
ここまでの出来事でさえ 信じられなかった。

コンサドーレがカウンターサッカーをすることはないと思ってた。
自分たちが培った 自分たちのサッカーをやる
例え相手がジェフであろうと 自分たちの理想を追い求めるだろう と思った。
だがその場合 ガタガタに崩されるだろうと
走り勝てるはずがないと思った 守りきれるはずがないと思った

両チームが お互いのスタイルのまま 真っ向からぶつかっていた。
それが45分間 まったくの互角のまま 前半を終えた
それが信じられなかった。

そして願った。このまま あと45分。そしたら何かが見える。何かを掴める。

後半が始まる 運命の笛に聞こえた。
ジェフはいきなり攻勢に出る ディフェンスの懸命なクリアが続く
だがコンサドーレの足は止まっていなかった 前線からも中盤も
後半開始から数分間の攻撃を凌ぎきった 徐々にペースを戻す

そしてこの日一番のチャンスが来た 左サイドから堀井が抜け出す
キーパーと1対1 そのままシュートを放つ 決まる 絶対決まる 立ち上がった
だが シュートはキーパーの手を弾き 勢いよく転がった
そこへ詰めて来る選手が見えた 赤黒のユニフォームだった 清野が詰めた
キーパーは倒れたまま 今度こそ決まる 両手を上げた バシッ
次の瞬間 ボールは頭上で押し戻されていた DFがゴールの前でクリアした
「あーーーー」 観客からは一斉に 悲鳴と溜息が漏れた。

この最大のチャンスを外したのは大きい 今後 そうそうないだろう。
そして流れは序々にジェフへと戻って行った
後半10分過ぎから ジェフの選手たちの動きが変わった
運動量が増え ボールの繋がりもスムーズになる
ジワジワと力の差が広がって行くように感じられた
中盤でのボールも取れなくなる 鋭いシュートが 幾度も藤ヶ谷を襲う。

正直 この時間帯のジェフは怖かった。
ライオンがウサギを追うように 鋭い牙を向け ジワジワと襲い掛かる
そんなイメージがあった 決して一気に行くのではなく ジワリ ジワリと 
ウサギたちに逃れる術はなく 足も止まりかけていた。
そして追い詰めたれた。

後半25分 阿部が放ったコーナーキックは早く鋭く エリア中央へ向かう
選手がひとり飛んだ バスッ 鈍い音を立て ゴールネットに収まった
まったくのフリーだった そのボールに誰も競ることはなかった。
だが それまでの懸命なディフェンスを考えれば これだけを責める事は出来ない。
今のジェフを相手に 1失点 それは仕方のないことだろう。

この失点の数分前 柳下監督はひとつの勝負に出ていた。
チームの要である 砂川を下げた。実力としては唯一ジェフに立ち向かえた選手を。
だがこの時 コンサドーレに必要だったのは 運動量であり 素早い判断力であり
惜しまない献身さ だった。 代わって入ったのは上里
押し込まれている時間帯 その鋭い牙を本気で向けてきたジェフ
ルーキーの上里が立ち向かえるのか 心配だった。
だが これが上手く行けば チームにもたらすものは計り知れない
それは 素人目に 大きな賭けに映っていた。

上里が入って 僅か6分後の失点。賭けは外れたかに思われた。
残された時間は20分。
それを「僅か」と受け止めるか 「まだ」と受け止めるか その差は大きい
チームから発する気配には 「まだある」と言うエネルギーに満ちていた。
失点してから 走る速度が上がった。
「若いチーム」の強さが ここへ来て出てくる
「若い」とは年齢ではない 経験や プレーそのものも若い
時に その稚拙さを悲しむこともある。だがここへ来て 後ろ向きにならない姿は
「若い」強さだった。

堀井が どんなボールへも諦めず追う 上里が続く 岡田も村井を自由にさせない
誰もが 抜かれても次へ 次が抜かれれば そのまた次へ
そうして ボールを追い続ける。

どうしても 同点にしてほしかった。
これだけ良い試合をして このままじゃ 絶対 勿体無い。
あと1歩 今 1点 取ることが これからの全てにどれ程大きいことか
その1点が 必ず大きな自信になる。大きな力になる。
それは 選手たちだけではない。チーム全体に。
そして応援する私たちにも。

「シュート!シュート 打てー!」
ずっと そう叫び続けた。和波がクロスを上げる 岡田が飛び抜けたクロスを上げる
だが シュートには至らなかった 西嶋も上げる それも同じだった。
何でもいい シュートを打てば どうなるか分からない
キーパーのミスもある DFに当たり角度が変わることもある
ゴールに向かって ボールを蹴る それをしてほしかった。

数本のセンタリングは上がった。走りも勢いもコンサドーレが上回った。
あとはゴールを決めるだけ だが1点は果てしなく遠く感じた。
残り時間が気になった。携帯の時計を見る。あと10分。

このままじゃ 勿体無い このままじゃ…  祈るような気持ちで選手たちを見た。

ジェフのルーズなパスを 曽田が猛然と奪いに行った
そのままドリブルで 持ち上がる 来い 持って来い シュートまで シュートまで…
だが曽田は途中で ドリブルを止めた 勢いが止まる なんでだ 行けよ
上里へ渡す ボールと一緒に運命も託された。
ジェフゴール前には壁のように 幾人もの選手が立ちはだかっていた
30m手前 上里からのシュートコースは ほとんどなかっただろう
「打て!」 その言葉しか出てこなかった。

DFと縺れながら 左足を振り抜いた 
ボールがバウンドする 人垣の中を貫ける
ゴールキーパーが左に飛んだ

パサッ ゴーーーール!!!!!

夢を見てるようだった。実現するには 遥か 遥か 遠く感じた 夢だった。

ルンバ氏が隣の見知らぬ男性と抱き合って喜ぶ。
「うえさとー!!」 何度も 何度も その名を叫んだ。
まだ 夢とも現実とも区別のつかないまま リスタートされた あと10分。
さぁ もう1点。

終盤になっても 互いに運動量は落ちなかった。
堀井 岡田は走り続け チームの実力差を埋めた。
残り5分を切っても変わらない。彼らはともに 試合前 こう語っていた
「倒れるまで 走り続ける」
まったくその通りになった。その姿に感動した。
2人は 今日 誰より多くのもの手にしたのだろう。

混戦は最後まで続いた 上里のCKを曽田が合わせる 阿部がミドルを打つ
両チーム譲らない 五分の戦い。
ロスタイム ペナルティエリア外 左側でFKを与えた。
蹴るのは 阿部。キックは壁の左上を抜ける 
そのまま 急速な孤を描きゴールへと向かう 入る 目を瞑りそうになる
藤ヶ谷が飛ぶ 右手をかすめ ゴールを逸れた
まだまだ 終わるわけにはいかなかった。

主審の手が上がる 90分の試合は終わった。1−1。延長戦突入。
辺りは 低い雲のせいで薄暗くなっていた。
15分づつの延長戦でも決着が付かなかった場合 PK戦になる
その頃には 3時半を過ぎ 辺りはもっと暗くなってるはずだ
照明灯のない入り江競技場 PK戦の行方が気になっていた
本当にやれるんだろうか と。

そして 思ってもみなかった 延長戦に入る。
コンサドーレのキックオフで始まったボールは そのままゴール前まで行きCKになった
田畑が合わせる 入ったかと思えたボールは ワクの僅か右を逸れた
その直後 またも押し込む 曽田が下がりながら シュートを放つ またも僅かに逸れた
その2分後 今度は上里がミドルを打つ これもまた僅かに逸れる
3本とも 素晴らしいシュートだった だがほんの少し ワクを外れた
立て続けに来たチャンスを外す 嫌な予感が襲う。

強烈なカウンターをくらう ジェフのシュートはワクを逸れた。
運命はどちらに転ぶか まったく分からなかった。
それでも コンサドーレは走り戦い続けた。
もう それだけでも 十分だった。

勝ちは願っていた だが そういう思いをも 越えていた。
ただ ただ 嬉しかった。

中盤の奪いから 左のスペースへボールが出た 
一瞬 相川がオフサイドに見えた
副審の旗は上がっていない。そのまま 前へ運ぶ。
ジェフの守備に追いつく力は残ってなかった。
角度のないところ 右足で蹴り込んだ
キーパーの手を弾く 転々とゴールの中へ入って行く。

ゴーーーール!!!Vゴーーール!!
相川が決めた。


ジェフの選手たちは 呆然と立ち尽す。
信じられないのだろう 敗戦が。
僕らも信じられなかった この勝利が。

戦いは終わった。J2最下位が J1上位に勝利した。
だが ハッピーエンドを迎えたわけじゃない。
リーグ戦がある。天皇杯大分戦もある。次の戦いが待っている。
この「若い」チームは まだまだ余力を残しながら 次へと向かう。

試行錯誤したシーズンの終わりに 大きな手応えを掴んだ。
自分たちの来た道の正しさを証明した。
「理想と現実とのギャップ」は いつしか埋まっていた。

その証明を見ることが出来て 本当に良かった。

赤と黒の勇者たちが 手を振り挨拶へと廻る 鳴り止まない声援 拍手
「全力」と言う言葉を 体現した彼らが とても とても 誇らしかった。

本当に行って良かった。 出川役も 時に悪くないものだ。


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