蹴馬鹿の窓 NO.15


「緩み」 2004.10.11 kazua510


「パパ がんばれ!」

対戦相手 ホンダロックの横断幕のひとつに そんな文字が書かれていた。
そうだろう 彼らは宮崎県 地域リーグを勝ち上がってきた アマチュアチーム
応援する相手は 憧れのスターではなく 家族や友人。パパやニイちゃんたちなのだ。
その実力も「県大会決勝を鵬翔高校に延長で勝ち取った」と
決して誉められたものでもなかった。
前日からの台風の影響で小雨の混じる室蘭 気温は18℃
南国 宮崎とは10℃ほどの気温差があるだろう いや 体感にはもっと大きいはずだ
そして応援の数も違う キャパの小さな入江と言えど 
2600人もの相手サポーターが集まった。

相手はプロ 悪天候 気温差 そしてサポーター 不利な条件は重なっている
この 完全なるアウェイの中 彼らはどう戦うか  それが気になった。


朝7:00 起きて真っ先に窓の外を見た。薄曇り。雨は今にも落ちそうだった
洞爺湖温泉の一室 妻を起こし 朝食へと向かう 食べながらも天候は気になっていた。
浜風 雨 台風の影響 相当な寒さを覚悟しなければならない
正直に言えば サッカーだけを見に室蘭へ行くのは 気が重かった
これまでも年に1・2度は室蘭に行っている だがその度 浜風は吹き続け 辛い観戦だった
そして 昨年の12月 天皇杯 あの厳寒の試合。私にはトラウマになっていた。
何か観戦以外に楽しみがなければ 足は重くなる。
洞爺湖温泉は自分自身への"ニンジン作戦"なのだ。当日予約は高いニンジンになった…。

室蘭入江に向かう 車中から見える雲は一層厚さを増し 晴れを願うこともなくなった。
入江競技場に到着。少しでも防寒をと SAの席にした さほど抵抗にならなかった。
ただ思ったほどの風はなく あと3時間 雨さえ降らなければ そう悪くない天候だった
だが そう思った瞬間から ポツリ ポツリと落ちてきた。


ホンダロックの選手たちが試合前の練習に出てくる。
誰も彼らの様子を気に留めていない。ただ黙々とアップを続ける選手たち
地域リーグを勝ち上がったチームにとって 天皇杯とは唯一プロと本気で戦える大会なのだ
どれほどのモチベーションを持って望んでいるかは計り知れない。
活躍することで 己の道が広がる。勝つことで注目度は更に上がる。
まさに彼らのサッカー人生を賭けた戦いと言っても過言ではないはず
選手たちの様子を見に行った 警備員に不審な顔をされたが 
構わず近くまで行って しばらく様子を眺めていた 
もちろん助っ人外国人などいない 知ってる顔もない 150cm台であろう小さな選手もいた。
だが彼らは臆する様子もなく 淡々とアップを続けた。

「パパ がんばれ!」 その横断幕が 彼らの中の誰かに向けたものだろう
いつの間にか 「がんばれ」 そんな思いがこみ上げていた。自然と。


数分後 コンサドーレの選手たちが入ってきた。迷わず岡田を探す。

いた。  市村を探す    いない。

スタメンだ。久しぶりだ。気の重さはあったが やはり来て良かった。
サァっと選手が散る。手前側に控え 向こうがスタメン 双眼鏡を取り出す

いない。向こう側に 岡田がいない。探せない自分に少しイラついた。
妻が手前の選手を指差した。岡田は控え組でボールを蹴っていた。

「なぜ?」 そう憤る言葉しか出てこなかった。
上里が良いのは ここ数試合で証明されている 砂川も外せない選手だ
だが 本職の右サイドを削ってまで 併用させるのか?
対戦相手を考えても スタメンはスタンダードなシステムを取るべきではないのか?
素人の考えでは そんなセオリーしか浮かばなかった。

他の控えには 金子も入っていた。これまで一度も見る機会がなかった選手で
体は小さく 猫背 気だるそうに練習する姿など パサーかドリブラーを彷彿させるが
ポジションはボランチ どんなプレイスタイルなのか非常に興味が沸いた。
ただ 交代は3人まで。地元出身の佐藤 尽は まず出るだろう 無論 岡田も。
残る後一人を 桑原と金子のどっちかになると予想していた。


試合開始。わずか4分 ドフリーの砂川からセンタリング そしてドフリーの堀井へ
枠を外れた。その後も2度 ノーマークのシュートは外れた
「なぜ?」 またも憤った。キーパーのセイビングなら仕方がない。相手のプレスもない
まったくのフリーで打ったシュートが 枠を外れる。何度も。
シュートが枠に行く それはプロもアマもない。そうしなければ点が入ることはない。
当たり前ことなのだが それが出来ない選手に 怒りより不思議さを覚えた。

「緩み」 そんな言葉が頭をよぎった。

決して 対戦相手を侮ってるのではない はずだ。
だが 自分らの中に「緩み」がある のは明らかに見られる
思えば コンサドーレはどこと対戦しても 苦戦・善戦をしている
相手の力量に合った戦いとでも言うのだろうか。常に五分に思える。
仙台に勝ち越し 京都に引き分けた だが一方 ホンダロックにも五分になる。
「そのうち点も入るだろう」 そんな「緩み」がゲームに流れた。

3度目の決定的シーンでようやく点が入った。決めたのは 堀井。前半22分。
だが試合開始直後から流れる「緩み」は変わることなく 前半終了間際 同点にされた
左サイドに送られたボール 曽田がスライディング行く だがあっさりとかわされ
フリーで打たれた ポストにはじかれたところをMFが詰めていた。
曽田のプレーも誉められたものではなかったが 中央で抜かれたわけではない
そのカバーもなく 後ろからの選手に厳しいマークもなかった守備意識が「緩み」なのだ。
1−1の同点で前半終了。小雨は本格的な雨に変わってきていた。

後半開始 ひとつの楽しみがあった。岡田が投入されるのではないか と。
自陣に向かう背番号を確かめた。 2番は見当たらなかった。
前半15分ほどで 砂川が右足を負傷 苦痛の表情をベンチに向けていた 
すぐさま 岡田がアップを開始した だが前半からの出番はなかった。
だからこそ 後半開始からの投入を期待した。
だが そんな願いは 終了まで叶わなかった。

雨は時折 大粒に降り落ち 寒さはジワジワと体の芯まで凍みらせた
コンサドーレは攻め続けるも シュート本数は減っていた
ホンダロックの両サイドを幾度となく破り 決定的なセンタリングを上げる
だが シュートにはならない 中央で飛び込むこともない 見送る場面ばかりだった。
寒さと共に 選手たちの動きも鈍くなった。

スタンドからの野次は 罵声に変わってくる。
決してミスが多いわけではない 押されてるわけでもない だが得点は入らない
観客も選手たちも 余裕をなくしていた。
後半20分 上里に代わって桑原。
上里はここ数試合で見せたゲームメイクの良さが出せず 交代は仕方がないと思えた
だが 上里を下げるならば 中央は砂川で 右に岡田ではないのか
またも素人考えで 選手交代に不満を抱いた。
入った桑原は中央突破に固執する だがマークは厳しく止められ
鋭いカウンターを受ける フリーの選手を捕まえることが出来なくなる
ほんの僅かな差で失点は免れていた。前線の3人は孤立し ラインは間延びしてしまう
コンサドーレは明らかにバランスを崩した。
その修正のために 金子が呼ばれた。田畑を守備に専念させ 前線とディフェンダーの
繋ぎ役を金子に託した その役割を十分に機能させバランスは保たれるようになった。
だが 相変わらずシュートは枠を逸れ 得点に至ることはなかった。

降り続く雨 体感気温はどんどん下がっている だがスコアは1−1のまま。
延長戦は免れなかった。

「苦戦」から「逆転」 そして「敗戦」と言う言葉まで浮かんできた。


延長戦。ここへ来て驚くのは ホンダロックの体力だった。
彼らは90分 走り続けた。モチベーションも一向に下がることはなかった。
それは延長に入っても 変わらない。彼らは走り続ける。
その姿が コンサドーレの選手たちと対極に映ってしまう。
観客の罵声はどんどん強くなる。
延長前半 3度4度と決定的チャンスを外す。「緩み」は消えていない。
延長後半 残すは後15分のみ。プロとしての意地を見せてほしい。
正直なところ PK戦になるぐらいなら 延長でV負けしてもいい とさえ思った。

残り2分。この試合 何度も見た サイドからノーマークのセンタリング
直前のCKで残っていた曽田が見えた 少し短いが 合わせられるはずだ
曽田がファーから中央へ入る だが相手DFが先に触った ボールはこぼれる
ゴール前は幾重にも壁が出来ていた 右足を振りぬいた DFに当たりまたこぼれる
最後に詰めたのは 堀井 岳也だった。

どんな形でもいい 結果を残したい プロの意地 だった。

その瞬間 ホンダロックの選手は入江のピッチに崩れ落ちた。
寒さ 緊張感 応援 実力差 全ての環境と戦い全力を尽くした。
気力も体力も限界だっただろう。会場からは労いの拍手が起きた。

いちサッカーファンとして思う。 
彼らは「天皇杯の面白さ」を存分に見せてくれた
プロもアマもない ただ1個のボールを真剣に追うことが サッカーなのだ。
彼らの精神力がここまで縺れた試合になった。

そして終了後の挨拶 コンサドーレの選手には厳しい声が響いた。
ホームゴール裏となるバックスタンドへ向かう選手 サポーターの数人が飛び降りた
不甲斐ない試合への怒りだろう いや ただのパフォーマンスだ。
「俺らはこんなに悔しがっている」 そう表現するためのパフォーマンスだ。
形だけの怒りなら 今 このチームには必要ない。
もっと根本的なところで 強くならなければ 忍耐力をつけなければ 一緒に強くなる
そう思ってなければ このチームを応援し続けることは出来ないだろう。


しばらくの間 会場には「ホンダロックコール」が響いた。
それはコンサドーレへのブーイングに近く 無論 ホンダロックへの健闘も称えていた

「パパ がんばって!」 その横断幕に恥じない戦いだった。
「上里と戦ったことがあるんだよ」 そう言わせるような チームになってほしい
君たちは 何千何万といるサッカー選手の頂点で戦っているのだから。


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